迷った時はSEM【アスベスト分析基礎知識】
《 2025年6月19日 》
こんにちは、株式会社ベスターです。
弊社では以前紹介させていただいたように、偏光顕微鏡を使用してアスベスト繊維を探しています。
しかし、時にアスベストなのかどうか判別しにくい繊維が見えるときがあります。


図のように、アスベスト繊維の形はあるものの、分散が見えにくい場合、これが本当にアスベストなのかジャッジに苦労します…
そんな時、弊社ではSEMを使用して判定します。

弊社で使用しているSEM
SEMとは、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)の略です。
SEMは普通の顕微鏡とはいったい何が違うのでしょうか。
普通の顕微鏡は光で物を見る(光学顕微鏡)のに対して、SEMは電子(早い話がビーム)を当てて反射したものなどを映像化して見ます。
機能的にも差があります。
SEMは光学顕微鏡よりも高倍率で見ることができます。
具体的には、通常の光学顕微鏡は100倍~400倍で見ることができますが、SEMは解像度が高く、数万倍まで対応しています。
さらに、SEMは広い範囲に焦点を合わせられることから、より詳しく表面の構造を見ることができます。
少し詳しい原理を説明します(やや難しいので、難しい方は下までスルーで!)。
SEMは図に示すように、電子を放出する電子銃、放出された電子を集束させる電子レンズ(集束レンズ)、収束された電子線を試料表面にムラなく照射するための偏向器、試料から跳ね返る電子を検出する検出器からなります。
電子銃から放出された電子は電場により加速され電子レンズ(対物レンズ)に入ります。
電子レンズは凸レンズに似た役割であり、電場や磁場により加速電子を収束させます。ピンとこない方は虫眼鏡の光を収束させて物を焼く、あの感じを思い浮かべてみてください。
収束された電子は偏光器により試料(観察領域)にくまなく当てられます。
この偏光器の作業は「走査」と呼ばれます。このタイプの電子顕微鏡が「走査型電子顕微鏡」と呼ばれる所以です。
通常の光学顕微鏡ではサンプルを動かすのに対して、SEMはこの偏光器によって視野を動かします。
そして試料に当てられた電子のうち、多くは試料表面内部に潜り込み(入射)されますが、いくつかの電子は試料表面からいろいろな方向に散ります(散乱)。
表面から散る電子には種類があり、入射された電子がそのまま跳ね返った「反射電子」と、もともと試料中にあった電子が追い出されて出てきた「二次電子」の2種類があります。
検出器ではこれらの電子を検出し、電子の量に応じて画像の濃淡をつけることで表面の凹凸などを可視化します。

SEM原理画像
~ここまで原理のお話。お疲れ様でした。~
実際にアスベストか疑わしいサンプルをSEMで見てみるとこんな感じです。

SEMによるサンプル写真

比較画像 偏光顕微鏡による同サンプル撮影
SEMの画像では立体感や繊維の束がよりくっきりとみえます。
今回のサンプルでも、偏光顕微鏡の画像に比べて、くねくねとした曲線形の線維が束になっていることがよくわかります。
アスベストの一種であるクリソタイルはこのような曲線の線維束なので、今回のサンプルもクリソタイルが含まれていることが疑われます。
まずはこのようにして疑わしい繊維を観察します。
これに加えて、弊社で使用しているSEMは原子のX線エネルギーも観測することができます。
(またまた原理の話です。スルーでも大丈夫です。)
先ほど原理にて説明した「二次電子」ですが、これが放出される際には一緒に「特性X線」も放出されます。特性X線がもつエネルギーを調べることでどんな元素由来のX線かを判定し、どの元素がどの程度含まれているのかを判別することができます。
~ここまで原理の話です。お疲れ様でした。~
早速、先ほどの写真の繊維のX線のデータを見てみましょう。

今回のサンプル

クリソタイル標準試料
見てみると、今回の検体およびクリソタイルのピークともにMg(マグネシウム)、Si(ケイ素)が含まれています。
また、今回の検体およびクリソタイルともにMgのほうがSiよりもピークが高い傾向がみられます。
クリソタイルの化学式は Mg3Si2O5(OH)4 なのでMg>Siのピークがあれば、その繊維がクリソタイルである可能性が高いです。
ちなみに、今回のサンプルではC(炭素)のピークが大きく出ていますが、これはサンプルを載せているテープが炭素でできているためです。
先ほどのSEMの繊維写真の情報と照らし合わせると、今回見られた繊維の特徴は
・曲線形の繊維束が見られる
・Mg、Siのピークが見られる
・MgのほうがSiよりも多い
これらの情報を加味して、今回のサンプルにはクリソタイルが含有していると判定しました。
弊社では疑わしい繊維はこのようにしてSEMで確認することで、より確実な結果を皆様にお届けしています。
是非ベスターへ分析を!!

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